在留資格「特定技能」について

2019年4月1日施行の外国人の為の新しい在留資格

『技能実習』から『特定技能』制度へのシフト

1993年(今から27年前)入国管理法の改正により、日本に初めて、外国人の労働力を国内で活用することが可能になり、在留資格『技能実習』ビザが制定されました。技能実習とは字のごとく、外国の方が日本で仕事のやり方やノウハウを学び、期間満了(最大5年)後、そのスキルを母国に持ち帰るという建て付けのものでした。
以降20数年にわたり、主にアジア各国から多くの外国人実習生が日本で働くために来てくれました。

実習生として、日本の仕事の技術・ノウハウを習得することが主目的ですから、最大でも5年しか日本にいることができません。その後は母国に帰国をしなければいけない制度です。
日本の企業に雇用をされるわけですが、入国から日本語教育、仕事の準備研修など、入社前の研修は監理組合という組織が外国人の面倒をみることになっています。実習メニュー(仕事内容)も限定されています。そして日本企業に入社となるのですが、1号で1年、2号で2年、そして3号で更に2年と合計5年間日本に実習生として滞在することが認められています。
既にマスコミ報道などでご存知の方も多いと思いますが、『技能実習』制度は多くの社会問題を生み出し、日本は世界各国から非難の的になりました。最低賃金による過酷な労働、時間外労働(いわゆる残業代)の未払い、生活面でも複数の実習生を狭い部屋で共同生活させ、管理費と称して給与の何割もの額を天引きする業者、借金で実習生の自由を奪うブローカーなど、すべての実習生ではないものの、多くの外国から来た実習生は不当な扱いを受け、社会問題は膨らんでいきました。

日本政府はこのような事態、評判を放置するわけにいかず、遂に2018年の年末、新たな在留資格『特定技能』制度を国会で打ち出しました。

年が変わり、翌2019年4月1日在留資格『特定技能』は施行されました。
前述の技能実習制度のマイナス面を念頭に入れ、かつ『移民の受け入れはしない』という旧来の日本の立場を守った制度です。

・向こう5年間労働力不足が顕著な14分野に限定し、各分野の上限人数を定め、5年間で合計34万5,000人の外国人を受け入れる。
・受入れの条件は、18歳以上で、生活に支障の無い日本語力の習得(日本語検定N4以上)と分野別の一定レベルの専門知識を有すること。

柱はこの2点です。
そして、実習ではなく労働力の確保を目的にしつつも、通算5年以内、家族の帯同は不可という条件は技能実習制度と同様のものです。
雇用の条件面では、同一の仕事をする日本人と同等以上の給与(最低賃金ではない)を支払うこと、転職の自由を許すことなど進化はしたものの、大きな枠組みは『技能実習』制度の原型を色濃く残すものでした。

施行から1年半、『特定技能』制度はどんな状況か

「人材不足に困っている14分野に向こう5年間で34万人の外国人労働者を」と始まった新制度ですが、1年経過した2020年3月末時点の、在留資格許可件数は3,987件。実に5年計画値の1.2%にも及びません。もちろん2019年後半は世界中がコロナウィルスによる影響を受け、海外との渡航も大幅に制限されました。今もまだその勢いは収まりが見えない状況です。
しかし本当にコロナだけが進捗率1.2%の原因なのでしょうか。外国人を日本人同様に仲間として受入れ、5年という上限はあるにせよ互いに理解しあってWin-Winの関係で協調していくように私達日本人が変わっていかなければいけないように思います。
出入国在留管理庁のあり様も数年のうちに変化が求められるかもしれません。

労働力の確保と今後の展望

『技能実習制度』も『特定技能制度』も現状はどちらも、上限5年の制度です。人口推計によれば、およそ1億2,000万人の日本は近い将来8,000万人の人口になるようです。一方世界の人口はインド、アフリカをはじめ今後も爆発的に増えていくのです。
人種、民族、国籍の壁を見直し、先進国が発展途上国の安価な労働力を利用するという考えから、共に助け合っていく、多様性のある共生社会の実現こそが私たちのあるべき姿ではないかと考えます。
とあるアジアの方に、『日本で働くことは第一希望ではありません』『アメリカやヨーロッパで働きたいですが、在留資格がおりません。だから日本で働こうと思ったんです』と聞きました。私たちは外国の人々に選ばれる国になるよう制度も、気持ちも変革しないといけません。宗教の問題、言葉の問題、乗り越えなければならない課題はたくさんあるかと思いますが、「互いの立場を理解し合い、尊重し合う社会を実現すること」で、外国人労働力が最大限に発揮され、日本の人材不足を解決する大きな力になると信じています。

この記事を書いた人

上田隆寛

Human Resorce関連の仕事にかかわって、はや30年。外国の方に日本で活躍して頂けるよう精一杯がんばります。